アドバンテージ

Gust,小説ロアルカ

アルトネリコ2、ED後の、クロアとルカのベタベタ甘々イチャイチャ話。

※個人の解釈と妄想に基づくロアルカ恋愛要素がふんだんに盛り込まれています

お好きな方はどうぞ!


 

「わぁ……!」
 こんもりとした茂みをくぐり抜けたらしい先で、歓声が上がる。その後を追おうとしたクロアは、小さく嘆息した。
 細身で身軽な彼女ならうまくくぐり抜けられただろうが、比較的軽装ではあるものの鎧を纏っている騎士がこの茂みを傷つけずにすり抜けるのは不可能だ。
 青々と葉を茂らせる枝を間違っても折ったりしないよう、細心の注意を払いながら行く手を阻む木々を押しやり、制止も聞かずに先行した護衛対象の背中を木漏れ日の中に発見したクロアは、ほっと息を吐いた。
「ルカ、頼むから」
「ねえねえクロア、ちょっとここ似てないっ?」
 勝手に先に行かないでくれ俺の仕事がルカの護衛だという事を忘れたのか、と続くはずだった小言を満面の笑顔で遮られ、クロアはあまり動かない表情を落胆に傾かせた。
 しかしそれでも、ぐるっと両手を広げて足取りも軽く回るルカの指が示す先を目で追う。
「似てる……?」
 何が、と尋ねようとしたクロアは、ややあって納得したようにひとつ頷いた。
「みくりの、秘密基地か?」
「そう!」
 嬉しそうに頷いて、華やかな色彩の上着を翻したルカは一本の樹に駆け寄る。
 新緑の大地・メタファリカに移されたみくりの森の大地の心臓によって、この一角は森になっていた。以前と全く同じみくりの森が再生されたわけではないが、生い茂る木々や木立に止まってさえずる鳥や花々を縫うように舞う蝶は、見慣れた種類ばかりだ。
 すでに故郷は雲海の底にあるクロアとルカは懐かしさと喜びと、隠しきれない少しばかりの寂しさを噛みしめながら、この森を視察していたのだった。
 まだ二人が幼かった頃、秘密基地にしようと決めた洞のある大木によく似た樹を見上げたクロアは、風に揺れて瞼を差す木漏れ日に目を眇める。
「ほら、ね! 洞の感じとかそっくり」
 満面の笑顔で大木の洞の辺りにしゃがみ込んだルカは、入れるかどうか試した末にがっかりした様子で肩を落とした。
「小さいね、やっぱり」
「……ルカが大きくなっただけじゃないのか」
 何気なく口にした言葉に、ルカは過剰に反応した。手近に転がっていた木の実を掴んで、がばりとクロアの方を振り向く。
「ふ、太ってなんかないもん!」
「そっちじゃない! 子どもの頃の話だろう、そんな洞で遊んでたのは!」
 慌てて発言内容に説明を加えたクロアに、なぁんだ、と恥ずかしそうに笑ったルカは、木の実を手の中で転がしながらその場に座り込んだ。
「わ、これも懐かしいなぁ。食べたら酸っぱくて渋いんだよねっ」
 座り込んだ辺りに落ちている葉っぱや木の実などを拾い集めて、ルカはそれを丁寧に手の平に乗せる。捧げ持つように空に差し出した色とりどりの収穫は、勢いに乗ってふわりと辺りに散らばった。
「休憩するのか?」
 問いかけたクロアに、ルカは小首を傾げる。
「ちょっとくらいゆっくりしても、予定時間には帰れるでしょう?」
「まあ大丈夫だとは思うが」
 丁寧に印を付けてきた地図と方位磁針、そして仰ぎ見た陽の高さから余裕はあると判断したクロアは、ルカの近くに腰を下ろした。その姿勢からだと抜き放ちにくいブースターランスを抜いて手の届く場所に置いた彼に、ルカは肩をすくめる。
「クロアは心配性だよね」
「用心深いと言ってくれ」
「おんなじだよ、それ。あーあ、クローシェ様も一緒に来られたらよかったのになぁ。急にお仕事が入っちゃうなんて」
 樹にもたれて、彼女は葉擦れの音を楽しむように目を閉じる。そうだな、と頷きながらクロアもまた空を仰いだ。緑の天蓋の向こうには青空が広がっている。
 と、その手に温かな感触がふわりと触れたのにクロアは視線を落とした。遠慮がちに、小さなルカの右手が重なっている。
 こぼれそうになる笑みを押し隠しながらその手を返して細い手を握ると、隣に座っていた少女がはにかんだように笑った。
「……でも、ちょこっとだけ偶然に感謝、ね?」
「そうだな。是非クローシェ様には内密の方向で」
「うん、ナイショね」
 くすくすと笑い合って繋いだ手を軽く握りしめてから、二人でまた空を仰ぐ。
「こーんな、のんびりした気分も久しぶりだねー」
 土いきれに満ちた森の空気を深く吸い込んだルカに、クロアはやや遠い目になって同意を返した。
「ルカもクローシェ様も、ちょっと予定が過密すぎないか。あれでは身体が保たない」
「うーん。私は結構頑丈だから大丈夫だけど、時々レイカちゃ……クローシェ様は、夜に熱出しちゃうんだよね。ストレスじゃないかと睨んでるわけですが、セラピストとしては」
 無理を押し通す妹を心配する姉の顔になるルカに微笑を浮かべ、クロアは緑の森を見渡す。
「それこそ、今度はクローシェ様も連れてきてさしあげないとな。それか、空猫がなんだか大満足だったルカのセラピとか」
 何気なく言ったクロアの言葉に、ルカはやおら身体を起こしてクロアの腕に取りすがった。
「空猫には二度としない。しないから安心してねクロアっ」
 切羽詰まった様子での念押しに、クロアは顔をしかめる。
「……安心するしない以前に、何があったのかを聞くのも怖いんだが、それは」
「聞かないで。でも誓ってクロアだけだからねっ!」
 なんだか締め上げられているようだと苦笑しながら、クロアは真剣かつ必死の形相を浮かべているルカの髪を指で払った。
「俺だけ、って、たとえば?」
「え?」
「だから、俺だけにな事は、たとえばどんな?」
 辺りの気配に危険がないのを確かめてから、馴染んだ固い感触の武器から離した手を、柔らかなルカの頬に重ねる。
 と、不思議そうにきょとんとしていたルカが、クロアのてのひらに覆われた頬に一気に朱を昇らせた。
「え、あ……っと、その」
 乱雑さのかけらも見あたらないように、どんなに精巧で脆い硝子細工だろうとかすり傷一つ負わせないような丁寧さで、そっとルカの肩に回した手に力を込める。
 思い出の場所によく似たところで二人きりという、ある意味において絶好の環境におかれた自分の状況に気づいて慌てはじめたのか、上半身だけ後ろに下がろうとする彼女をやんわり引き寄せるクロアに、ルカはふるふると首を振った。
「え、ええっと……ね、その、もうちょっととっておくとか……ダメ?」
「――ダメ」
 紅潮した頬に潤んだ瞳での上目遣いの懇願に、クロアは無情にも断固とした却下を告げる。
「や、やっぱり? あ、でもこう、ほら」
 まだ無意味に引き延ばそうとあがくルカを腕の中に閉じこめながら、クロアはうつむこうとするルカの顎を指ですくって上向かせた。
「そこまでわかってるなら目を閉じてくれないか、ルカ」
「だ、だってつぶっちゃって変なトコぶつかったりし――んむっ!?」
 そんな下手をするもんか、という反論は胸の中に止めて、クロアは彼女の頬に額に髪に降り注いでいた木漏れ日の様に、そっと唇を触れさせた。
 名残惜しさを感じながらも、みっつ数えてからぬくもりを分かち合ったそれから離れたクロアは、涙のにじんだ睫毛を瞬かせて彼を見上げるルカの瞳をのぞき込む。
「ほらな? 大丈夫だから、目つぶって」
 しばらく左右に視線を彷徨わせた末に拗ねた瞳でクロアを睨み上げたルカだったが、やおら彼の首に両腕をかけると伸び上がり、唇を押し当ててくる。
 一瞬で離れた後、鳩が豆鉄砲を食ったようなクロアの表情を確認したのか、彼女が満足そうに微笑んだ。
「ふふーんだっ。私だってクロアに負けてばっかりじゃないんだからね!」
「……」
 クロアはため息を押し殺した。誇らしげに勝利を宣言したルカは、まだ自分の置かれた状況をきちんと把握してはいなかったらしい。
 そもそもからして、ルカは根本的に間違っている。クロアに言わせてみれば、今度こそ本当の恋人同士という区切りをつけたあの日からこっちですら、いつも負けっぱなしだからこそ、キスもまだだったというのに。
 これは一度、この機会に分かってもらわなければならないだろう。色んな事を徹底的に。
 そう判断したクロアは、腕の中にある細くて柔らかいぬくもりをたぐり寄せるように抱きしめ直した。
 まだ得意そうな笑みを浮かべている唇に、もう一度彼の唇を重ねる。
 今度は数なんて数えない。触れさせるだけでは止めてやらない。息継ぎの間も与えない。参ったを聞くまでは、我慢してやらない。
 そう静かに決意しているクロアの胸中など知らないルカはしばらく腕をつっぱろうとしたり身をよじろうとしたりともがいていたが、やがて逃げられない事を悟ったのか抗う動きを止めた。
 なるべく優しくと考えていたはずなのに、いつの間にか後れ毛ごとうなじを押さえ込み、顎をかき抱くように支えた指は固定するためだけに動く。柔らかなそれを押しつぶしそうな錯覚を覚えて、掴んだ直後に力を緩め、それでも顔を動かすことは許さずに、唇を奪った。緊張して余計な力が入っているのか、ぎゅっと引き結ばれている唇を舌でなぞり、唇の動きでこじあけた隙間から舌を差し入れ、逃げようとするルカを絡め取る。
 熱の籠もった呼吸が二人の間だけでわだかまり、蓄積されていく。
 喉の奥でくぐもった音が漏れるのが、振動で直接に伝わってきた。わずかに唇を離すと、苦しそうな呼吸が漏れる。鼻で呼吸すればいいのにと考えながらも、ルカが荒いながらも一つ息を吸ったところを見計らって、口づけを繰り返した。今度はもう少しうまく、もう少し丁寧に。絡めて、吸って、なぞって、確かめて。
 後れ毛をくすぐるように、動かないように添えていた手を動かす。びくりと震えた肩まで、首筋を指の腹で撫で下ろす。
 とうとう唇をふさがれたままクロアの名を呼んだルカの顎をとらえたまま唇を離すと、伏せられていた瞼がそろりと開いて、涙をいっぱいにためた瞳が恨めしげに見上げてきた。
「く……クロア、恥ずかしいよぅ……っ」
 弱気な発言に微笑みを返したクロアは、熱い頬を引き寄せる。瞼に、額に、鼻の頭に口づけの雨を降らせると、あまり力の入っていないらしい白い手で遮られた。
 さらにその上にも口づけを落とす。動揺したのか、逃げようとした手を捕まえて下ろさせて、もう一度引き寄せる。
「ちょ、クロアっ、もう無理だよ……! し、心臓がもたないよっ」
 涙声での必死の懇願に、クロアは涼しい顔で頷いた。
「そうか。頑張ってもたせてくれ」
「そんな無茶――んっ」

 クロアの腕の中で力の入らなくなったルカが白旗をあげるまで、まだあと少し。

 

―了―