デートに行こう!

Gust,小説ヴェルリリ

リリーのアトリエのヴェルナー×リリーのお話です。
指輪イベント後、もだもだしてるふたりのいちゃいちゃ(?)未満の話。


 

 「ねえね。やっぱりデートとかするの?」
 興味津々と言った顔で、おまけに両手の拳もギュッと握って胸元で組み合わせたエルザが、身を乗り出して尋ねてくる。
 なんの話だろうと、リリーはきょとんと友達の目を見つめ返した。
「デート、って、誰が?」
「あーもう! わたしはリリーにきいてるんだから、リリーがするに決まってるでしょ!」
「……あたしが?」
 採取先から工房へ帰ってきたばかりで、採ってきた瞳石や樹氷石などをより分けていたリリーはその手を止めて、同じようにラグカーペットに座り込んでいるエルザを、今度はまじまじと見つめ返した。
「そうよ」
 きっぱりと頷いて、エルザは心もちリリーの方に近づいて、肩のところで切りそろえられている髪を揺らして首をかしげる。
「ヴェルナーとデートしたりとかするんでしょ、やっぱり」
 リリーはしばらく言われた意味が飲み込めないままエルザの瞳を見つめ返し、そして飲み込むや否や思わず手にしていた樹氷石を取り落としかけた。
「で、ででっで、でえとって、え、あたしとヴェルナーが!?」
「そーよ。恋人同士なんでしょ?」
 頬を紅潮させて問い返すリリーに、エルザはあっさり頷いて、どこか遠くを見るような瞳を空に泳がせる。
「物語とかであるじゃないの。わたしずっと憧れてたんだものー。恋人同士が公園で待ち合わせて、で、女の子の方が先についちゃったりして、まだかな、今かなってどきどきしながら相手が来るのを待ったりするのよ。でもヴェルナーって遅れてきそうだからリリーは途中で心配になったりするの」
 エルザは、すっかりどこかの恋人同士の想像を、リリーとヴェルナーにあてはめてしまっているらしい。だんだん具体的になってくる熱弁に、リリーはまだ幾分熱を帯びた頬を両手で挟むようにして冷ましながら、たははと力無く笑った。
「何言ってるのよ、エルザったらもう」
「ええ? しないの?」
「しないも何も、考えたこともないわよ」
 苦笑しながら言うリリーに、エルザは疑わしそうな目を向けた。
「……だってヴェルナーに会うでしょ?」
「そりゃお店行ったりするし、ヴェルナーも依頼持ってきてくれたりするし」
「一緒に出かけたりしないの?」
「そうね、採取につきあってもらったりするけど」
「それはデートじゃない――!」
 突然大声で叫んだエルザに、工房で作業をしていたイングリドとヘルミーナがぎょっとこちらを振り向いた。
「デートって、先生が?」
「え、先生デートしてたんですか!?」
 二人とも大きな色違いの瞳をさらに大きく見開いて、手にした調合の道具を放り投げそうな勢いで叫ぶ。
「ああもう、二人とも何言ってるのよ! あたしは今採取から帰ってきたところでしょ!」
 叫んでから、リリーは肩で息をして、そして額を抑えてうつむいた。
「――いいから二人とも、続けないと固まっちゃうわよそれ」
「大丈夫です。ピッケよろしく!」
「ホップも、私のよろしくね!」
 それぞれ妖精たちに作業の続きを押しつけて、イングリドとヘルミーナはリリーの両脇に座り込んだ。
「だって先生、今日の採取、ヴェルナーさんと行ってきたんでしょう?」
 首をかしげてヘルミーナが言うと、うんうんとイングリドが頷く。
「最近、いっつもヴェルナーさんと一緒ですもんね」
「だーかーらー! 今回だってエルザも一緒でしょう? それはデートじゃない……と思うんだけど……」
「そうよ。あれはデートじゃないわ」
 恐いくらいの真剣さで、エルザはずずいとリリーに詰め寄った。それに押されてリリーは少し逃げ腰になる。
「リリーはヴェルナーが好きなんでしょう? わたしにはどこが良いのかちっとも分からないけど。だってヴェルナーったら口も態度も悪いし無愛想だし、ひどいこと平気で言うし、こないだだってわたしのこと子どもとか言うし」
「エルザさん、話ずれてます」
 控えめにヘルミーナが言葉を挟み、イングリドはリリーの腕を取ってその茶金の瞳を覗き込んだ。
「だって先生、あのお守りにしてたペンダントヴェルナーさんにあげてましたもんね」
 リリーは思わず目を見開いてイングリドの色違いの瞳を見返した。見る間にその頬が紅潮していく。
「なななななんであなたが知って」
「……先生、あたしたちが工房にいるのに玄関先でああいう話してて、どうして聞こえないと思うんですか?」
 反対側でぽそりと呟くヘルミーナの言葉に、イングリドはこくこくと首を縦に振った。
「でも安心してください、先生。あたしは誰にも話してませんから」
「そうです先生。イングリドはどうか知らないですけど、あたしは誰にも話しませんから」
「何よそれ! あたしがおしゃべりだって言うの?」
「あなたたちも話をずらさない!」
 あやうくいつものけんかに突入しそうな二人をエルザは遮り、あらためてリリーの方に向き直った。
「ね、リリー。したことないなら、すればいいのよ」
 リリーの手をとって握りしめるエルザに、リリーは困惑して、茶金の瞳を左右にさまよわせた。が、この工房の中に都合良く味方が出現するはずもない。
 いいって言ったって、と、リリーは口の中でもごもご呟く。
「だって……もしも、よ? エルザの言うようなデートを……ヴェルナーがしてるところって、あなた達想像できる?」
 リリーの問いに、三人は一斉に黙り込んだ。真剣な顔をつきあわせて、少女達は考え込む。
「……デートって言ったら――」
 晴れた初夏の空の下。広場の噴水で人待ち風情のリリー。そこに駆け寄ってくるヴェルナー。うっすら汗をかいた額を袖で拭いながら、ヴェルナーが申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
『悪い、待った?』
『ううん、あたしも今来たところよ』
 そこまで考えたところで、三人の顔は険しくなった。
「……待ち合わせはダメね。向いてないわ」
「やっぱり、デートは中身が肝心ですよね」
 エルザの呟きにイングリドとヘルミーナがうんうんと頷く。
「じゃあやっぱり――」
 ちょと小洒落たカフェのテラスで、ミスティカティーとケーキを前に嬉しそうなリリー。その向かいで微笑んでいるヴェルナー。
『あんまり甘いものばっかり食べてると太るぞ』
『大丈夫ですよーだ』
 いーだをするリリーの額をつついてヴェルナーは笑う。
 そして三人は、なんだか蝶番の軋んだドアが開くときにも似たような仕草で、リリーの方をのろのろと見やった。
「――ゴメン、リリー。わたしの想像力が足らないのかも知れない」
「先生、やっぱりここは人とは違うデートを目指すべきですよ!」
「……あなたたち、ひょっとしてあたしにケンカ売ってる?」
 それかバカにされてるかのどちらかだ。リリーは本気でそう思ったが、三人はきわめて真面目にとんでもないと声を揃えた。
「あのねえ」
 深い溜め息をつきながら、リリーはより分けた樹氷石を箱にしまうべく立ち上がる。
「あなた達、大事なことを忘れていない? あたしたちは、錬金術のアカデミーを設立するためにザールブルグに来たのよ?」
「あら、だからってデートしちゃいけないわけじゃないと思うわ」
 あっさりと断言したエルザは、拳を顎にあててうーんと考え込んだ。
「採取……そうね、採取だって考えたら一種のハイキングよね……。モンスターと戦ったりするけど、まあその辺は目をつぶるとして……」
「つぶっていいポイントでしょうか、それ?」
「でも目をつぶらないと何処にも行けないわよ、ヘルミーナ。先生だもの。手頃なところでへーベル湖かしら?」
「そうね、あそこならモンスターも大したことないし。景色も良いし、そんなに遠くないし。ああでも、いきなり泊まりはマズイかしら?」
「……もしもーし……?」
 リリーの弱々しいツッコミもよそに、エルザがじゃあまたねと工房を去ったときには、リリーの手の中に三人によって練られたデートの計画書があったのである。

 

 職人通りの、井戸の隣。一風変わった作りの建物の二階に、ヴェルナー雑貨店はある。
 店内に入ってすぐに目に付くとても風変わりなお面と目が合った瞬間、通常の日用雑貨などを求めに来た客は回れ右するという。
 階段状になっている店内を上っていくとカウンターだ。本を読んでいるか、はたきをかけているか、はたまたカウンターをふいているか、お気に入りらしい品々を眺めているか、居眠りをしているかする店主が、カウンター前に立った人の気配に顔を上げる。
 面倒くさそうに、彼はこう言うだろう。
「ん? 見たことない奴だな……何か用か?」
 入り口のお面で挫けなかった客でも、この時点でたいてい次はないと決意するかと思われる。
 しかし、そんな店に前代未聞の革命が起こったのはつい最近のことだ。その店主の無愛想にも皮肉にもやる気のない態度にもめげず通い詰めて、とうとう店主はその人のためだけに店を開けているのではないかと人々が噂するほどになった、一人の少女の出現によって。
 ドアを開けて店内に入る。呼び鈴もついていないので、ただ木材のきしむ音がするだけだ。
 窓が一つもないこの店は、どうにも通気性に乏しい。珍品や骨董品を多く取り扱っているこの店は、そういったものに独特の匂いをもっているため、かいがいしく世話をするメイドによって香が焚かれることが多かった。それは、メイドさんがかわっても健在なようで、今日もふわりと柔らかな匂いがまとわりつく。
「あ、いらっしゃいませ」
 そのメイドが、モップをかけていた手を休めて顔を上げてにこりと微笑んだ。リリーも笑みを浮かべて小さく会釈する。
「こんにちは、ヴェルナーは居ますか?」
「ええ、さっきから寝てらっしゃいます」
 営業スマイルのメイドさんは、肩をすくめて小声で答えた。
「……もう、本当にあの人ったら、商売するつもりがあるのかしら」
 リリーの呟きに、メイドは営業スマイルを浮かべたまま返答を避ける。できたメイドさんだと思いながら、リリーはいつもは軽やかに駆け上がっていく階段に、ゆっくりと足をかけた。
 何もエルザたちの計画に乗らなければならない理由はないはずだ。ないはずだが、ああまで言われてしまうと、なんだか気になる。
 確かに、今のリリーとヴェルナーは、人がいうところの「コイビトドウシ」なのかもしれない。しれない、というのも確証がないからだが。
 具体的に何かの約束を交わしたわけではない。でも、ヴェルナーがリリーを大切にしようと思っていてくれるのは知っている。わかっている。
 だからといって、物語に出てくるような恋人たちや、町中で歩いている恋人たちに二人が当てはまるかと言えば、リリー本人にも確信がないのだった。
 溜め息をつきながら、階段をのぼりきると、ヴェルナーが顔を上げた。昔冒険者をやっていたというヴェルナーは、気配に敏感だ。
「お、どうした、何か用か?」
 リリーの姿を認めて、ヴェルナーは猫のようにのびをしながらそう尋ねた。
「あ、うん、えーっと……」
 曖昧に答えて、リリーは今日の掘り出し物がおいてある棚に顔を近づけて、品物を見ているふりをした。
 ポケットの中に、あの三人が精魂込めて練り上げた計画書はある。でも、どうやって切り出そう?
 とりあえず、ランドーをいくつか取り上げて、カウンターの上に置く。
「ランドー10個だな。ありがとよ」
 リリーの手から銀貨を受け取り、それをしまい終えたヴェルナーはリリーを見て顔をしかめた。
「……どうしたんだ?」
「な、何が?」
 思わずどもりながら答えるリリーに、ヴェルナーはその指をぴっとリリーの鼻先に突きつけた。
「何か気になって仕方のないことがあるって、顔に書いてあるぜ」
「え! ウソ?」
 あわててリリーは両手で顔を覆う。その様子にヴェルナーは喉の奥でくつくつと笑って、カウンターに肘をついて姿勢を崩した。
「何だ? 質問か、意見か? それともお願いか?」
「……あ、あのね」
 観念して、リリーは思考回路をフル回転させた。まず、デートに誘わないと話が始まらない。そう、エルザたちは誘い文句まで考えていてくれたではないか。計画書をここで開けるわけにはいかないが、思い出せ、思い出せリリー!
「あのね、ヴェルナー、そう……あの、つまり――付き合ってほしいの!」
 ようやく思い出したリリーは、ぎゅっと目を閉じて叫ぶように言い切り、そろそろと目を開けてヴェルナーの様子を窺う。
 と、気負い込んだリリーの目の前で、ヴェルナーはいともあっさりうなずいた。
「ああ、かまわねえぜ。おい、今日は閉店だ」
 入り口のあたりではたきをかけていたメイドにそう声をかけて、ヴェルナーはさっさと愛用の短剣を取り上げて立ち上がる。
「……え? あれ?」
 拍子抜けして、その場に立ちつくしているリリーに目を遣ったヴェルナーは、怪訝そうに眉をひそめた。
「おい、かごはどうした? 行くんだろうが、採取に」
「――あ、うん、そう、そうね」
 いくらか落胆して、そして同時に少しほっとして、リリーは身を翻した。
「城門で待ってて! すぐ行く」

 かごと、いくつか薬草と護身用のアイテムを持って、リリーが城門に駆け足で向かうと、石造りの壁にもたれていたヴェルナーが体を起こした。
「ったく、肝心なもの忘れてくんなよ、お前は」
「あ、うん、ゴメンナサイ、考えごとしながら出てきたものだから」
 本当は今朝工房を出てくるときに、ヘルミーナたちに取り上げられたのだ。が、今は二人とも二階で本に熱中していたようだったので、こっそり取ってくることに成功したのだった。
「あれ? 他の奴はどうした?」
 俺一人か、と不思議そうにきいてくるヴェルナーに、リリーは慌てて笑みを浮かべた。
「うん、今日は近くの森だから」
 あんまり言い訳するとかえって嘘っぽくなるかな、と思い、リリーはそれ以上は口にせずに城門を出る。
 後ろでヴェルナーが首をひねっているのが視界の端に見えたが、気付かぬふりで、森への慣れた道のりを歩きはじめた。

 湿った落ち葉が降り積もってできた柔らかな腐葉土を踏み分けて、リリーはめぼしい場所を探して奥へと足を進める。
 道々、目に付いたうにや魔法の草を採取かごの中に入れながら、リリーはきょときょととあたりを見渡した。
 エルザが前もってつけておいてくれた、赤いリボンが木の枝に結わえられてそよぐ風にひらひらと揺れているのを見つけて、ほっと息をつく。
「ヴェルナー、こっち」
 慣れた道の方へ進もうとするヴェルナーの背中に向けて声をかける。肩越しに振り向いてヴェルナーは怪訝な視線を投げてよこした。
「そっち行ったら、道から外れるぞ」
「うん、大丈夫。ほら、目印ついてるから」
 リリーがリボンを指さすと、ヴェルナーは首をかしげながらも回れ右してリリーのもとまで戻ってくる。
「何処に行くんだよ?」
「うーん……実はあたしもわからない」
 素直に答えてしまったリリーに、ヴェルナーは一瞬ぽかんと目を丸くした。
 リリーは息を呑んだ。
 しまった。いかにも行ったことがある場所のようにしてヴェルナーを連れて行って、そしてそこで、エルザ達いわくの『でえと』をしてこなければならなかったのに。
 リリーの動揺をどう受け取ったのか、もともとつり目がちのヴェルナーの瞳が険しく細められる。
 何か言おうとヴェルナーが口を開くより前に、リリーは慌てて「あのね」と声をあげた。
「ええと、だから、エルザがこないだ探険してて、気持ちのいいところ見つけたんだって! せっかくだから、お昼をそこでヴェルナーと食べたら楽しいかなって……思って……」
 少しずつ声が弱まっていくのは、ヴェルナーの眼光が一向にゆるまないからだ。少しずつ視線がヴェルナーのうす茶色の瞳から外れて、足元に落ちていく。手に持った採取かごと、お昼の入ったバスケット。
 デートは確かに、エルザやイングリド達に押しきられた計画だったけど、それもいいかなとちょっと思ったのはウソじゃない。
 と、帽子越しに何かが頭の上に乗った感触にリリーは反射的に顔を上げた。そこに待っていたのは、微苦笑を湛えた、ヴェルナーの皮肉げな少し薄い唇。
 かすめるようにリリーの唇にそれを触れさせて、そしてリリーの頭にのせた手で、ヴェルナーはぐりぐりと撫でた。
「ばーか。デートに誘うならそれなりのやり方を考えろよ」
 ただ呆然と突っ立っているリリーの手から採取かごを取り上げると、ヴェルナーは次の赤いリボンを目指してとっとと歩きはじめる。
 数歩進んで、それでもリリーの気配が動かないのに焦れてか、ヴェルナーは足を止めて振り向いた。
「おい、早いところメシの食えるところに行かねえと、昼過ぎちまうぞ」
「……しの……」
「は?」
 お昼ごはんの入ったバスケットを固く胸に抱きしめていたリリーが、うつむいたままふるふると震えていた顔をきっと上げる。
 その頬は紅をさしたように紅潮し、金茶の瞳にはうっすら涙がにじんで木漏れ日を弾いていた。
 そのままつかつかとヴェルナーの前に足音も荒く近寄ると、その襟首を右手でひっつかまえてがくがく揺さぶる。
「あたしの……あたしのファーストキス!! なんかこうもうちょっと感動的にというかろまんちっくにというか、あれじゃだまし討ちじゃないのひどーい!」
「だまし討ちっておま」
「だいたいこないだ指輪見せてくれたときだって騙されたし! なんであたしこんなに騙されっぱなしなの!?」
「だからお前騙すって人聞きの悪」
「ヴェルナー悪人面だけど皮肉もいっぱい言うけど騙すのは良くないわよ悪い事よだいたいからしてなんであたしばっかり振り回されて」
「……黙らねえともっぺんするぞ」
 押し殺したような低い調子の声に、リリーはひたりと口を閉ざした。襟首をひっつかまえて至近距離になっていたうす茶色の瞳に彼女が映っているのが見えるほどの距離だったことに気付き、慌ててその手を離して一歩後退る。
 そんなリリーの様子に、ヴェルナーは溜め息まじりに笑みを漏らし、少し腰をかがめてリリーを覗き込んだ。
 思わず怯んで、リリーは胸にバスケットを抱きしめる。
「イヤだったか?」
 言葉とは裏腹に、その瞳は『そんなわけないよな』とでも言うように、いたずらっぽくひとつ瞬いた。
 息を吐くことを忘れて、胸一杯まで息を吸っていたリリーは、上目づかいにヴェルナーを睨みつける。
「………………いじわるっ」
「はいはい」
 肩と頬に回された手のひらの暖かさに、今度こそ心構えをしてリリーはぎゅっと目を閉じた。
 胸に抱えたランチの出番は、もう少し遅くなりそうである。

 

―了―