ことのはをきみへ

ZTP,小説ニクジュディ

ズートピアのニックとジュディが手紙をやりとりするお話。
事件解決後からエピローグまでの、ニックがアカデミーに居る間の九ヶ月間の隙間妄想です。
ラブ要素は限りなく低いですがニック→(葛藤中)→←(無意識)←ジュディのつもりです。


 

 よし、今日も生き延びた。
 そんな感慨を胸に沈めながら重い身体としっぽを引きずって歩くのは、若い頃で卒業したと思っていた。
 ギリギリ法律の許す範囲内、それぞれの地を仕切っているファミリーに目をつけられない範囲内で、うまくすり抜けながら最大効率を探す。結局それが一番リスクが低く儲けが安定するのだと悟るまでは、色々無茶もやったものだった。
 そんな狡いキツネが、今は警察学校の寮の廊下をずたぼろになって歩いてるんだぜ。ニック・ワイルドはひっそりと胸中で呟いて、口角を皮肉に歪める。
 幸運の女神というのはなかなかしっぽを掴ませてくれないくせに、一度こちらを捕まえて激流に放り込んだら、後はおかまいなしの気性らしい。
 今日の急流下り訓練はなかなか堪えた。シロクマ教官の檄が四方八方から飛びまくっていたが、一体あの教官はどこに陣取っていて、どうやってあの流木の上を移動していたのか。いくら身体の大きな肉食動物とはいえ規格外にも程がないか。
「あ、ワイルド」
 寮監のチーターに呼び止められて、ニックはとりとめもない愚痴を脳内で垂れ流すのを中止した。足を止めて声の方向を見上げる。
「はいはい、なんでしょうか」
 小脇にほうきとちりとりを抱えていた寮監は、くい、と顎で事務室の方を指した。
「お前宛に小包が届いてるぞ。持ってけ、台車が必要ならそこの階段下に置いてある」
「げ」
 ニックは思わず呻いた。小包が来るような心あたりはない。おまけに、台車が必要なレベルの荷物なんて今は抱えたくない。果たして一度事務室に戻ったチーターがニックの足下にずしんと置いたのは、テーブルになりそうなサイズの段ボールだった。
「重いんですか」
「そこそこあるな。書籍って品名にはあったぞ。紙は重いからなぁ」
 なんだって誰がこんなところに本なんて送ってくるんだ。顔をしかめながらチーターが指した方向へ視線をやる。段ボールに貼られていた伝票に踊るように記されていた送り主の名前を認めた瞬間、ニックは目を見開いた。
 ずたぼろになっていたしっぽが、ほたほたと揺れ始める。
 ジュディス・L・ホップス。
 彼にとっての幸運の女神の名前だった。

 ――寮の裏庭にね、楡の木があるのよ。大型動物は無理だけど、私くらいなら余裕で隠れられるくらいの良い枝振りでね。時々そこで気分転換しながら勉強してたの。あなたでも大丈夫そうだから教えておいてあげる。え、もちろん登るのよ?

 そんなことを笑顔で言っていた、彼をここに導いた灰色の毛並みのアナウサギ。彼女から送られてきた荷物の中には、彼女がこの警察学校に居た時分に使っていた教本やノート、テストの問題用紙やレポートの束、それにブルーベリーワインの小瓶が入っていた。
 その一番上に載っていた、いかにも彼女らしい真っ白の四角い封筒とワインの小瓶だけをポケットに突っ込んで、ニックは楡の大木の幹に手をかける。
 最初は手こずったが、足をかける場所さえ覚えてしまえばなんとかなった。たぶんジュディも使っていたのだろう、背中をもたせかけて足を投げ出して座るのにちょうど良い窪みに収まり、ニックは夕日が沈む前にと手紙を開いた。